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フランツさとみ
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「日本の皆さんへ伝えたい」民族弾圧に苦しむアフガニスタン男性の告白


2016年9月28日

「日本の皆さんへ伝えたい」民族弾圧に苦しむアフガニスタン男性の告白
ミュンヘンに住んでいるアフガニスタン男性より、「アフガニスンにおける非道な民族弾圧を、日本の皆さんに伝えてほしい」と連絡をうけました。日本では報じられない彼らの苦悩を、フリーライターのフランツさとみさんが伝えてくれます。
日本の皆さんへお伝えしたい話があります。
僕の名前はアリ(35歳)、アフガニスタン北部クンドゥーズ出身のハザラ民族です。
ハザラ人はイスラム教シーア派教徒。顔立ちは東アジア人に近く、アフガニスタンでは3番目に大きい280万人の民族です。国内の多数派であるスンニ派との宗教観の違いや異なる外見から、僕たちは常に暴力と差別のターゲットであり続けています。高等教育を受ける機会を奪われ、低い地位のまま発言力も持てず、人が嫌がる仕事に就いています。それだけではありません。権力者やタリバン、ISら民族浄化を目論む組織からの大量殺戮、追放、誘拐の危険と隣り合わせで、今日でもあらゆる場所で残酷な打ち首に処されているのです。
危険から逃れるために多くのハザラ人は隣国のパキスタンやイラン、または欧米で生活をしています。
僕も2009年までパキスタンとイランで生活しており、その後ドイツで難民申請が認められ、現在はミュンヘンに暮らしています。

ハザラ人は真面目な働き者で、居住国に貢献しているという自負があります。しかし、パキスタンでもスンニ派過激組織によるハザラ人虐殺が行われています。パキスタン政府はこの野蛮な行為への対策を講じてくれません。
世界中に散らばっているハザラ人コミュニティーは、欧米や豪州のパキスタン大使館前でデモを行い、パキスタン政府がこの問題に真摯に対応するように訴え続けています。

最近また、アフガニスタン政府による組織的なハザラ人弾圧が行われました。
日本の皆さんは「アフガニスタン南北電力供給プロジェクト」という送電計画をご存知でしょうか?これはアジア開発銀行から出資を受けており、日本政府や英国、米国からも直接支援されている開発計画です。下記のサイトに詳細が書いてあります。
http://www.adb.org/news/adb-power-project-boost-afghanistan-north-south-link

アフガニスタン政府は、中部のバーミヤンに通すはずだった当初の送電計画を変更し、カブールから北に100kmの所にあるサランに通すことにしました。その理由はバーミヤンはハザラ人の居住地域だからです。外国のエネルギー専門家は、アフガニスタン全体特に中部に巨大な経済的機会が見込める当初のバーミヤンルートを強く推奨しています。それにもかかわらず、アフガニスタン政府は意図的にハザラ人を排除しました。その裏には、ハザラ人に経済的恩恵を与えたくないという明確な意思が働いているのは言うまでもありません。
この電力プロジェクトに失望したハザラ人たちは、2016年7月23日カブールで大規模な抗議デモを行いました。しかし、悲劇的なことにそのデモはISの標的となり、自爆テロによって80人が亡くなる結果となってしまいました。下記のニュースサイトが報じています
http://www.afpbb.com/articles/-/3095026
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/07/80isis.php

このような僕たちハザラ人の苦境は世界のトップニュースになりません。それは、アフガニスタンという経済的にとても弱い国のさらに弱い民族の話だからでしょう。僕たちの声は小さいかもしれない、だけど黙りません。日本を含む国際社会に手紙を送り、世界20ヵ国以上でデモを行い、現状を訴え、力を貸してくれるように声をあげ続けています。

日本の皆さんにお願いがあります。
日本から遠く離れた場所で、殺戮と人権侵害が繰り返されている事実をどうぞ知ってください。
そして、どうか日本政府を後押しして頂きたいのです。アフガニスタン政府に圧力をかけ、送電プロジェクトの見直しを行うように、平等という大切な基礎が全ての国民に行き渡るように。日本の皆さん、どうか僕たちに力を貸してください。

ハザラ人は日本の人々の優しさや日本政府がアフガニスタンを支援してくれていることをとてもよく知っています。
日本の皆さんの税金がアフガニスタンでどのように使用されているか、特定の個人のポケットやマフィア、独占的な会社ではなく、大切な資金が有意義かつ道徳的な貧困削減のために使われているかを注意深く観察してほしいのです。

アフガニスタンの復興はまだまだ遠く険しいです。経済、教育、インフラ、全てが遅れています。なかでも最も遅れているのは人権意識です。全ての人々は平等であるという、余りにも基本的な観念が根付いていないアフガニスタンに真の意味での復興は訪れません。アフガニスタンが国際社会での信頼を得るためにも、特定の民族へのあからさまな弾圧は止めるべきです。僕たちは同じ人間として他民族と同等の権利を獲得したい、穏やかな普通の暮らしを望んでいるだけなのですから。
インタビューアー:フランツさとみ
2013年からミュンヘン在住のフリーライター。旅行記事の他、昨秋から積極的にシリアなどからの難民に関する調査を行っている。

ドイツの難民

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