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「ダマスカスからミュンヘンへ」シリア人姉弟の絶望、冒険、再生への90日(3)


2015年11月10日

「ダマスカスからミュンヘンへ」シリア人姉弟の絶望、冒険、再生への90日(3)
ミュンヘン在住のフランツさとみさんが、ドイツにたどりついたシリア難民姉弟とのインタビューに成功しました! 今回はそのレポート3回目、最終回です。
(承前)
ダマスカス出身の姉ラナ(仮名・25才)と弟ラミ(仮名・18才)は、収束の気配すら見えず5年目に突入した内戦下で、「シリアには未来がない」と今年の夏、ドイツに向かうことを決断した。7月にシリアを脱出、トルコを経て、ギリシャの北エーゲ地方にあるミティリーニという街に漂着。ハンガリーからトラックの荷台に乗って、国境の街・パッサウにたどり着いた。

「ダマスカスからミュンヘンへ」シリア人姉弟の絶望、冒険、再生への90日(1)
「ダマスカスからミュンヘンへ」シリア人姉弟の絶望、冒険、再生への90日(2)

ついにドイツに到着

 ラナとラミが7月15日にシリアを発ってからパッサウに到着したのは8月3日。実に20日ぶりに味わう安堵感と喜びであった。
 しかしミュンヘンに移送された2人に新たな問題が生じてしまう。ハンガリーの刑務所で没収されてしまったため、シリア人だと証明する身分証明書を持っていないのだ。偽装シリア人が大量にドイツに紛れ込んでいるなか、ラナとラミにも疑いの目が向けられる。
 至急シリアにいる母親に連絡し、身分証明書をドイツへ郵送してもらった。これでようやく難民申請ができた。あとは申請が下りるのを待つばかりだ。

難民収容施設で暮らす2人

 難民収容施設での生活は、少し退屈だが快適だ。部屋は家族ごとに割り当てられ、単身者は男女に分かれて入居する。シャワーとトイレは共同で、宗教に配慮した3食の食事も美味しい。ドイツ語の授業も行われているが、次々に新しい人々が入ってくるため内容は繰り返しになり、なかなか前に進まないという。
 長く過酷な旅がもたらした心理的ストレスが影響しているのだろうか、ラミは朝なかなか起きられず、横になっている時間が多いという。声も小さく、ラナに比べると覇気がない。
 ラナとラミのお互いを気遣い見つめ合う眼差しは優しい。姉弟で手を取り、危険な道のりを乗り越えてきた絆の深さが垣間見える瞬間だ。
 「ドイツが大好き。人々はいつも笑顔で接してくれて、約束を守り、不自由が無いように配慮をしてくれる。何よりも彼らは私たちを人として尊敬してくれるの」と、2人はドイツで暮らす喜びを語る。一部のシリア人はドイツへの感謝を込めて、ミュンヘン中央駅で一輪の花を行き交う人々にプレゼントしているそうだ。
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フェンス越しに難民らの暮らしぶりを見ることができる

ドイツでの永住を目指して

 ラナの夢は途中で断念した大学の勉強をドイツで再開すること、ラミの夢は飛行機のエンジニアになること。シリアの復興は遠く険しく、未来が描けない。2人はドイツに永住するつもりだ。シリアでたった1人暮らす母親は、兄の帰りを信じて待っている。彼らが望むならいずれドイツに呼び寄せたいと希望している。
 「ドイツにやってきた難民の中には充実した福祉に依存している人たちも多くいる。もし差別や心無い言葉を投げかけられたらどうする?」と尋ねてみた。この質問にラナは「そういうことも起こり得るかもしれません。でも私は気にしないようにするわ。全ては自分次第、努力次第でドイツでの未来は開けるはず。勉強を一生懸命して、良い仕事に就いて、働いてドイツに恩返しするつもりです」と、真っ直な瞳で力強く答えた。

 インタビュー終了後、2人は「レインコートを買いにいく」と言って駅に向かって行った。その後ろ姿は静かだが“ドイツで生きていく”という覚悟とたくましさに満ちていた。
インタビューアー:フランツさとみさん
ドイツ人と結婚し、ミュンヘン在住3年の新米主婦兼フリーライター。猫と雑貨をこよなく愛し、動物愛護が最大の関心事。
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