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フランツさとみ
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「ミュンヘンの壁」に行ってきた ~難民施設と住宅地を隔てる厚い壁~


2016年11月13日

「ミュンヘンの壁」に行ってきた ~難民施設と住宅地を隔てる厚い壁~
ミュンヘン郊外に、難民施設と地元住民を分け隔てる「壁」の建設が進んでいます。施工主はなんと地元の自治体だとか………。
現地の自治体は、ミュンヘン市の南東部に位置する町Neuperlach Südに約160人の若い難民を収容する大規模な施設と、騒音と難民の予期せぬ行動から住民を守るために、施設と住宅地との間に「ミュンヘンの壁」を建設中である。

Neuperlach Süd駅からバスで10分、下車すると静かな住宅街にグレーの石を積み重ねた壁が見えてくる。長さはおよそ100メートル、高さは4メートルでベルリンの壁よりも若干高い。
想像していたよりも大きさを感じさせないが、周辺には異様な雰囲気が漂っている。

この地域に難民施設を建設することに対し、二年半にも及ぶ地域住民と行政の法廷闘争があった。「壁」を作ることは双方の妥協案だ。壁をよじ登ることや壁近くでのボール遊びは禁止としている。

160人の難民が暮らすことで生じる騒音とは、いったいどれほどになるのだろうか。
私の家から徒歩2分のところにも100人弱を収容する難民施設があるが、壁は無い。天気が良いと子供たちが庭に出て遊んでいる声はするが、それはどこにでもある日常の風景で、騒がしいと感じたことは一度もなかった。もちろん施設があること自体を良く思わない人は一定数いるが。

高速道路近くにある別の難民施設では、車の騒音を避けるために高さ3メートルの壁を設置している。
それよりも高い4メートルもの壁が、はたしてこの場所に必要なのだろうか。施設に最も近い住宅までは50メートルの距離がある。壁の設置が適切であるか、疑問を投げかける人は多い。
同盟90/緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)は壁を取り払おうと動き始めている。
その一方で、バイエルンキリスト教社会同盟(CSU)は、「壁は法的なプロセスの結果であり、醜いシンボルではない。ここでは難民は歓迎されている」と壁設置の正当性を述べている。

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私が訪れたとき、テレビクルーが施設の撮影を行い、地域住民が壁の前で話し合いをしていた。テレビカメラを見つけた一人の住民男性は、「子供たちの安全を守るためにも壁は絶対に必要なんだ!」と叫んでいた。

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昨年の難民危機で、ミュンヘンはドイツを目指す難民たちのゲートウェイとなり、多くの市民が難民歓迎のメッセージを携えて駅に集まった。あれから一年、「ミュンヘンの壁」は市民と難民との分断の象徴となってしまうのだろうか、ただの「騒音防止の壁」で落ち着くのであろうか。

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