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巣内尚子(すないなおこ)
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ベトナムのいま(12) ベトナム人移住家事労働者がサウジで窮地に、出稼ぎブームの功罪【後編】


2015年12月1日

ベトナムのいま(12) ベトナム人移住家事労働者がサウジで窮地に、出稼ぎブームの功罪【後編】
ベトナムからサウジに家事労働者として出稼ぎに行く女性が増えています。ところが、移住労働をめぐる課題は看過できない状況に。「出稼ぎブームの功罪」の3回目です。
これまで2回にわたりサウジアラビアでのベトナム人家事労働者の課題を伝えてきた。中編ではベトナム人家事労働者が直面した具体的な苦境について書いたが、こうした事態はなにも、この女性のケースに限らない。

逃げ出すベトナム人家事労働者

2015年6月にはサウジアラビアで働くベトナム人家事労働者23人が、厳しい就労を強いられたり、雇用主から暴力を受けたりしたことで、就労先から逃げ出した。(2015年11月17日付ベトナムの地元紙ザンチ電子版)
こうしたケースでは、仲介会社は「サウジアラビアで働けば月給900万~1,000万ドン(約4万9,156~5万4,617円)稼げる」として、女性たちを誘ったとされる。しかし、実際の給与は700万ドン(約3万8,232円)にすぎなかった上、厳しい就労条件をかせられたり、雇用主から殴られたりするなどの事態に至ったという。

サウジでの苦情申し立てが増加

国際労働機関(ILO)の2015年6月の報告書「The growing trend of Vietnamese migrant domestic workers」(1)によると、サウジアラビアで現在就労するベトナム人は1万6,000人で、うち5,000人は家事労働者だ。
一方、サウジアラビアで働くベトナム人労働者の苦情申し立て件数は2014年に60件に上った上、2015年1~4月だけで既に50件にもなるなど、増えている。苦情申し立てのうち80%は家事労働者からの苦情だという。
こうしてベトナム人労働者から寄せられた苦情には、厳しい就労状況、雇用主からの虐待などが含まれる。
移住労働の拡大は、確かにベトナム人にとって新たな雇用の受け皿になるとともに、就労先からの送金は移住労働者の出身世帯や地元コミュニティーに大きな影響を与えている。特にスキルや学歴などを得るチャンスに恵まれなかった農村出身の女性にとっては、海外での移住家事労働は現金を得る大きなチャンスとなる。
しかし、サウジアラビアではベトナム人の家事労働者が厳しい事態に直面し、人権侵害を受けている状況がある。特に家事労働者は、経済的に恵まれず学歴・スキルの取得の機会を得られなかった農村出身の女性が多いとみられ、さまざまな人権侵害にさらされても、それに対処するのは難しいだろう。
移住労働の広がる中で、こうした状況にどう対応し、移住労働者を保護していけばいいのかが、サウジアラビア当局や雇用主だけではなく、ベトナム側にも問われている。
タイトル写真:ハノイ市内で働く女性。ベトナムでは女性の大半が働き、中には海外で家事労働者として就労する人もいる。(筆者撮影)

(1)出典:ILO(2015)The growing trend of Vietnamese migrant domestic workers http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---asia/---ro-bangkok/---ilo-hanoi/documents/publication/wcms_376172.pdf

ベトナム 出稼ぎ

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